グローバル・ネットワーク協議会 分野別エキスパート(航空機)
(一社)神戸市機械金属工業会 神戸航空機クラスター チーフアドバイザー
赤 信彦
1.はじめに
ライト兄弟が有人動力飛行に成功してから115年経った。その後、より早く、より高く、より多くの乗客、貨物をより安全に輸送する要求に答えるため、高性能、低コストで、安全な航空機、エンジンが開発され続けている。
戦後、日本の航空機産業は解体され、1952年に再開された。この7年間で、航空機はジェット機が主流になり、性能・機能は大きく変化していた。日本は一丸となりT-1練習機(1958年)、YS-11(1962年)等の開発に取り組み見事に完成させた。
その後も、多くの困難なプロジェクトを乗り越え、現在の基盤を築いてきた。世界の民間航空機は、需要が大きく拡大し量産体制となり、現在2万機の民間航空機が空を飛び交っているが、20年後には4万機となる計画である。
航空機は世界の国々を身近にし、更にインターネットは瞬時に世界の情報を獲得可能とし、産業構造は、グローバル化、情報化がキーワードとなり、世界は大きく変わろうとしている。航空機産業にとっても同様であろう。
以下に民間航空機製造体制の一部を紹介するが、機体部品、エンジン部品、装備品等それぞれ若干ルールが異なるため、本文ではジェットエンジンを中心に量産体制の概要を述べる事とする。
2.民間航空機エンジンの量産拡大に伴う製造体制の変遷
戦後、ジェットエンジンの国内大手企業は、相互協力関係を保ち、多くのプロジェクトを克服した。1980年頃から民間航空機エンジンの部品製造ビジネスは拡大し始め、それまで、‘サブコン’と呼ばれた下請け契約から、RSP契約(利益配分率を定めたパートナー契約)へ移行し共同開発者として参画するようになった。2000年ごろから新型民間航空機(B787)用の新型エンジン(T1000,GEnx)の開発がスタートし、品質規格は一段と厳しくなり、Q,C,D(品質確保、コストダウン、納期確保)管理も更に厳しくなった。
国内大手企業は、それぞれ異なる海外の大手企業とRRSP契約(リスクと利益の配分率を定めたパートナー契約)を締結した。グローバル化、情報化、を進め、従来の垂直統合型生産方式(主契約企業が部品製造から、組立・検査まで一貫生産する)から、水平分業型(基本的に部品は協力会社で生産し、主契約企業は組立・検査・販売を主とする)に移行していっていると言われている。航空機部品の場合は、独特のレギュレーションがあり単純ではないが、大きな流れになると思われる。個々の部品で見ると川下企業(Tier1)はサプライヤー(Tier2)に対し一貫生産体制を期待している。特殊工程、非破壊検査、生産技術、生産管理、品質保証がポイントになる。
サプライヤーの相互協力で設備投資、人材投資を共通化できる部分も多く、今後の課題である。
この数年で、日本の航空機産業の生産高は2倍になり、今後数年で更に1.5倍の計画である。その後も拡大傾向であり、中小企業を中心としたサプライチェーンが必要となる。
3.最新の航空機エンジンの動向
石油の価格高騰、環境対策のため、燃費向上、騒音、NOx、SOx等の低減、改善が必要であり、下記の改善対策等が継続されている。
・機体、エンジンの軽量化による燃費向上(CFRP、チタンアルミ、CMC等の軽量材料の開発、適用)
・新耐熱合金(チタンアルミ、CMC等)の開発により、エンジンの効率を向上させる。
・GTF(ギヤード・ターボファン)エンジンの採用による燃費向上。
・電動航空機の開発がスタートされ、コスト、性能、環境対策も更に向上される。
4.まとめ―航空機製造ビジネスのとらえ方
①海外メーカにとって、日本のサプライヤーは・・・
・技術力、投資力、高精度部品の品質、コストが優れている。
②日本にとって、航空機製造ビジネスは・・・
・今後の基幹産業の1つとして期待されている。
・経済力拡大、技術力向上となり、長期安定ビジネスの1つとなる。
③新規参入企業にとって、航空機部品製造ビジネスは・・・
・自動車部品等のサプライヤーは、独自の技術、特性を有した企業が多い。また、複数のビジネス(自動車、ロボット、造船等)の経験を活かし、機動性、フレキシブルな応用技術を有し、航空分野への参入基盤がある企業が多い。
・一般産業のように、中小企業が海外メーカと直接取引するケースもあり、海外ビジネスのチャンスにもなる。
・航空機エンジン部品は、高精度、複雑形状、難削材と難易度が高い部品が多く、JISQ9100、川下企業の規格に合格する必要もあり、受注までに3年以上かかる場合があるが、定期交換部品も多く、30年程度は継続生産となる長期安定ビジネスである。
*次回(その2)へ続く。
◇情報化社会への対応(ICT、IoT、AI等)/航空機部品の生産体制(生産技術、生産管理、品質管理等) を記載予定。