• 2018.09.10
  • コラム

航空機産業で活躍を目指す企業に向けた初歩の初歩(第2回)

横井経営技術研究所 代表
一般社団法人 航空宇宙産業支援機構(ASISA) 代表理事
横井圭一

 前回は、航空機の分類、航空機産業の構造、機体、エンジン、装備品の各製造メーカーを概観しました。今回は、航空機産業に参入するに当たっての参入メリットについてお話ししたいと思います。参入を果たせた企業にとって、航空機事業で売り上げが立つと言った直接的なメリットは当然あります。ここではそれ以外についてご説明をします。

まずは、航空機とはどのようなものか少しご説明をします。航空機産業に製造で参入したとして、それが構造、エンジン、装備品のどの分野に関係してもその最終製品は航空機です。その航空機の中のジェット旅客機は、9,000m~13,000mといった高々度を巡航しています。例えば、ボーイング社のB787の最大巡航高度は13,000mです。これは何を意味するかと言うと温度で言えば、地上での外気温度が25℃として、巡航中の高々度の外気温度は-45~-55℃程度となります。外気圧に関しては、地上の1/4~1/6程度といった環境になります。

地上で生活する上では、通常経験しない様な厳しい環境下で航空機は運用されています。しかし実際に航空機に乗ってみると、機外が厳しい環境であることは実感できません。それは先ほどの例で言えば、人間が生きて行く為に空調システムが完備されているからです。空調システムは機内の圧力を高めたり、温度を調整したりしています。

こういった厳しい環境下で運用される航空機ですから、その部品の加工や品質には厳しい要求がなされています。それらの厳しい要求を1つ1つクリアしていく過程で自ずと技術力がついていきます。この技術力が航空機事業における技術波及効果のもとになっていると考えられます。

このように航空機事業におけるメリットの1つとして、航空機技術の波及効果があります。よく知られているものでは、自動車のABS(アンチロックブレーキシステム)、車載型衝突防止用ミリ波レーダー、医療用チタンボルト、ハイブリッド車搭載モーター用角度センサーなどでこれらは航空機技術から派生した製品です。

今回は航空機エンジン部品加工より得た技術から、自社オリジナル製品を開発した事例を紹介します。この企業は愛知県の蟹江町に本社がある株式会社近藤機械製作所です。Rolls-Royce社のサプライヤー認定を受け、民間航空機の最重要部品であるジェットエンジン主軸のベアリング部品の機械加工を行っています。ベアリング部品はその材質も難削材で、とても加工が難しく精度を出すのも苦労する材質です。

その加工技術から生まれたのが高性能自転車用ハブGOKISOです(図参照)。この製品は、耐久性に優れ、滑らかな回転が得られるため、高額部品でありながらサイクリストから高い評価を得るようになっています。今では当該企業の売り上げの1つの柱となっています。

また、技術だけではなく航空機事業で行なっているトレーサビリティをGOKISOに適用することで顧客に安心感を与え、他社製品との差別化になっています。具体的には、製品毎にシリアルナンバーがつけられているため、盗難防止となっているとのことです。

このように、航空機事業を通して磨き上げた加工技術で自社製品を生み出すと言った、技術の波及効果の事例を紹介しました。航空機事業を検討している企業の皆様は、今一度自社の得意技術を確認してみては如何ですか。