株式会社ティ・エフ・マネジメント
代表取締役 門間 清秀
航空宇宙産業への参入の第一歩は,品質マネジメントシステム規格であるAS/EN/JIS Q 9100認証取得が前提であることは,ほぼすべての組織が理解していると思います。
Nadcap認証取得については,航空宇宙産業に携わってきた企業においては,顧客からのアドバイス,あるいは支援により大きな問題になることはあまりありません。
一方,新規に参入する組織が,熱処理,化学処理,機械加工(CMSP*1:Conventional Machining as Special Process),測定及び検査(M&I:Measurement and Inspection)等の製造プロセスを対象として,Nadcap認証取得を計画する場合,下記の条件がありますので十分に確認する必要があります。以下は, Nadcap認証取得を検討されている組織への参考情報です。
1.Nadcap認証取得の条件
(1)AS/EN/JIS Q 9100認証取得していること,又は,AC7004(Aerospace Quality System:Auditチェックリスト)の認証取得済であること。
(2)Boeing, GE等のサブスクライバーと呼ばれる顧客(この場合,図面及び/又はスペックの設計権限を有する顧客)からNadcap認証取得を要求されていること。
新規に航空宇宙業界に参入する(又は参入した)組織にとって,上記(2)の条件は,非常に高いハードルです。(2)の代替方法として,ダミーの製品でNadcap審査計画を立て,PRI(Performance Review Institute)と十分な事前調整が必要です。
2.Nadcap認証審査の特徴
認証審査の特徴としては,下記のような事項があります。
(1)顧客の要求事項のフローダウンの確認
顧客からの注文書(P.O.)⇒技術要求(図面,スペック等)⇒作業手順書⇒作業が証明できることです。
・審査内容:契約書のレビュー,工程設計内容,計測機器の校正,作業パラメータ―の適合性,検査・試験,トレーニング・認定・資格授与,リワーク,不適合内容
(2)顧客の要求に対して,完全に適合していることを評価する。
(3)Job Audit(作業現場,工程確認)と書類審査(作業・検査手順書,成績書等の確認)が実施される。
・Job Auditとは,顧客の要求を満たしているかを,実際の製品に関するすべての工程に対して段階を追って行う審査のことです。
(4)当該工程の経験豊富な専門知識を有する審査員により審査されます。作業者・検査員にも質問します。
(5)再認証審査(Reaccreditation Audit)は,スコープ(対象とする特殊工程等)の変更がない限り,原則毎回,初回審査(Initial Audit)と同じ工数で実施されます。
(6)英語による審査(英語での対応が必要)
(7)ACチェックリストによる審査
・審査基準となるACチェックリストには,共通部分と各顧客固有部分があります。
図表―1は,審査基準となるACチェックリストの構成を示します。
*1:機械加工プロセス(CMSP 穴あけブローチ加工等 AC7126/1~6), これは一般の特殊工程とは異なる製造プロセスです。サブスクライバーであるGE,P&W等からの航空機エンジン部品の機械加工にNadcap認証が要求されています。機械加工にNadcap認証を要求した背景には,重大なアクシデントに至る航空機事故の発生があります。
Nadcap認証のScopeは,「製品安全」と関連して設定されているとも言えます。
・1996年米国Delta Airline MD-88エンジン運転中,P&W JT8-Dエンジンファンディスクバーストし,機内の搭乗者に破片が当たり2名死亡。原因は,Disk製造中,下穴加工時に工具破損があった。最終寸法確保が可能であり,技術者間で協議して「合格」としていた。下穴加工時の工具破損のダメージが除去されていなかった。
(出典 NTBS Aircraft Report Aircraft Accident Report PB98-910401)
・2018年4月17日 重大なアクシデント:South West Airlines Boeing 737飛行中にエンジンが破損し,機内の搭乗者1名が死亡。
(中日新聞 2018年4月18日)