横井経営技術研究所 代表
一般社団法人 航空宇宙産業支援機構(ASISA) 代表理事
横井圭一
日本での航空機産業の川下企業の現状を語るには、航空機産業の2大巨塔であるボーイング社とエアバス社の動きを見ておく事が必要です。特に日本の場合はボーイング社の動きが大きく影響しています。そのボーイング社はこのところ良い話題のニュースは少なく、嬉しくないニュースが飛び込んできます。例えば、737MAXのエチオピア航空302便とライオンエア610便の事故発生により、その対策に時間が掛かっておりフライトができない状況が続いています。その結果、737の生産機数は減少しています。具体的には事故以前の生産機数は月あたり52機でした。現在の生産機数は月あたり42機と減少しています。しかし、Seattle Timesの記事によれば、ボーイング社は「737MAXが運行に戻るためのタイミングを前提に」サプライヤーに新しい737の生産スケジュールを提供したと報じています。それによれば10月にFAAの認可を取得し、事故発生以前の生産レベルである月あたり52機に来年2月までに移行し、来年の夏までに月あたり57機の生産レベルに移行する予定としています。これは今までの生産レベルの最高値に達する見込みとしています。
日本では737の全体生産機数の3分の2程度の生産を行っていますが 、このような状況は当然、日本で737の部品製造を行っているTier1およびそのサプライヤーにとっては打撃を受ける結果となっています。ただ、日本では737の部品製造は787や777と比較して大きくはなく限定的なものと推察します。しかし、当該部品加工のサプライヤーにとっては大きな問題であり、頭の痛い話であります。
次に、777Xの開発の遅れ問題があります。これはGEが開発している777X用のエンジンGE9Xがスケジュール通りに進んでいないことがあります。Flight Globalの記事では「7 月、ボーイング社は公式に777Xの初フライトを2019年から2020年に延期するとし、その原因としてエンジンの問題を挙げた。同社は依然として777X認証を取得し、2020年末までに最初の航空機を納入することを目指しているが、スケジュールがずれることを認めている。」と報じています。777Xの生産レートが上がるにはまだ時間がかかりそうです。これは日本の企業にとっては痛手です。777の生産レートが下がる前と比べると現在は半分程度となっており、この状態が続けば売上の回復は遅れる事は必須です。
前述の2機種に比べ787は順調に生産機数を伸ばし、現状は月あたり14機でこの生産量が2021年くらいまで継続される見通しのようです。
また、三菱航空機が開発中の三菱リージョナルジェットMRJから名称を三菱スペースジェットMSJに変えたM90は、2020年半ばの納期を維持するとし、6度目の納期延期を否定したと報じられています。
このように航空機の機体に関しては、787の高レート生産を除いては我慢の時期となっています。では日本の川下企業Tier1はどのようにみているかというと、将来的に部品需要は見込めるとし安定生産と低コストで部品需要を取り込んでいこうとしていると推察します。
航空機事業の新規参入を検討している企業は将来の受注のチャンスを逃がさないよう準備を行っておくことが必要になってきます。
また、航空エンジンに関しては、「三菱重工業が長崎造船所の敷地内に航空エンジン部品を製造する新工場を建設すると発表した。グループの三菱重工航空エンジン(MHIAEL)の長崎工場として10月に着工し、2020年内の生産開始を目指す。製造するのは、米プラット&ホイットニー(PW)製GTF(ギヤード・ターボファン)エンジン「PW1100G-JM」の燃焼器部品。素材受け入れから加工、組立まで一気通貫の流れで手掛けられる生産ラインを構築する。」と報じられています。
このニュースは近郊の航空機クラスターにとっては朗報と思われます。「地産地消」の観点から受注の機会が増える企業も現れてくると思います。とは言え直ぐに航空機の部品のものづくりができる訳ではないので、JIS Q 9100に基づくものづくりの体制を準備して置く事が必要になります。
最後に日本航空機開発協会が発表している主要な民間輸送機の受注・納入状況(2019年7月末現在)から日本で部品生産されているボーイング機種を抜粋したものを表にまとめました。受注残をみて将来の動きを予想するのもいいのではないでしょうか。